イギリス人をツール・ド・フランスで洗脳する計画2005

ピレネーでの今年最悪ステージと目される第15ステージを見る前に、パーチィとやらをやっているらしいイギリス人(カナダ人宅に居候中)の家に顔を出しとくか……と思いメールをしてみると、「実はもうパーティーはおわっちゃった!でもここでツール見れるよ」との返事。「なんで?ほんとに?スカパー入ってるの?でも今カナダ人は旅行中でしょ?(普通契約切らないか?)」と聞いてみると「よーわからんけどJ SPORTS LIVEって書いてある。これ違う?」とのこと。とっさに電話して「それだー!なんでそんなのあるの?」と聞いてみると「知らないよ。よくわかんないけどこれが僕のファンタスティック・フラットなのさ」との答え。ふぁんたすてぃっくふらっと……。まぁ、いいや。
折角だから布教をしてしまえ
というわけで「O.K、アイスもってそっちいくわ。」と早速日本の自転車鑑賞文化を押し付ける。家まで相当歩いたけれど、頭の中は布教計画で一杯。
「おじゃまします(日本語)」
「What am I supposed to say?」
「いらっしゃい、とか」
「O.K. はい、どーぞ(日本語)」
「きゃーツールだ(日本語)」
そんな感じでアイスを食べながらマターリ観戦。先頭集団が最後から二個目の山頂を通過するところ。
「ルールは知ってる?」
「?」
なんと発音が悪くルールすら伝わらない(TOEIC890点♪)。
「ザ・ルール」
「あぁ、rulesね……一番早い人が勝つ!」
「はぁ……」
「他に何かあるの?」
言ってみたものの英語で説明するのが億劫だし出来ない。
「チームは9人で1人以外は基本的にはアシストだとか」
「ああ、ペースメーカーでしょ」
「あと他にも、食料・飲み物を運んだりするよ」
「それは車がやるんだと思ってた」
「ああ、そうなんだけど、プロトンは大きいでしょ。グループのことね。後ろの方まで下がらないと、車に接触できないから、そういうのはアシストがやんのよ」
「へー。他にはないの?」
「落車から守る。空気抵抗を減らす。あと、もしエースが自転車を壊したらあんたの自転車をあげなくちゃだめなのよ」
そんな感じで雑談交じりにツール観戦。相手はひたすらビール飲んでる。
「今日何本目?」
「まだ二本目!」
でもやたらでかいカンカンのビールですよあーた
雑談で最高に面白かったのはツールをなんで見てるのか?という話から派生したブサ男話。
「あ、これはイヴァン・バッソ。イタリア人なんだけど多分一番キュートなライダーだよ。むしろ美しい。」
「ハンサムってことだろ」
「いや、美しいんだって」
「それでツールを見ているわけか!」※スイス人も同じことを言った
「違うよ。たとえば(ウルたんとランスとバッソが移る)このT-Mobileのドイツ男はデブで醜いけれど私は彼を応援してるもん。T-Mobileは知ってるでしょ」
「?」
ティーモバイル。冗談でしょ?ロンドンにティーモバのスポットも広告も沢山あったわよ」
「ああ、ティーモーバイルね。」(またしても伝わってなかった)
「………ああ、ごめんね。あたし、ほら、ドイツ語を嗜んでいるもので、ドイツ風の発音をば」
「へぇ(嘲笑)」
「ところで彼みたいなUgly guyを何て形容するの?」(ウルたんはブスかわですが)
「........An ugly man?」
「一緒だし!一個しかないの?アグリーしか?」
「一個しかないけど、イギリスでは全員不細工だから、ただ a man って呼べばいいよ」
これには大爆笑。本当にイギリスとフランスでは格好いい人を探すのに苦労する。このあとオンナのブスをどう形容するのかを聞いたら、結構色々あるみたいでした。
そうすると最後の峠に差し掛かり、ファンも白熱。
「狂ってるねー」
「まぁねぇ。今はランス・アームストロングも受け入れられてきたけど、3,4年前はわりとアンチランスがすごくて、彼にいろいろかけたりしてた」
「マジで」
「というのも数年前はバスクもフランス人も割といい選手がいたんだけど、今はぱっとしないし、フランス人は引退しちゃったのよねー。リシャール・ヴィランクとかジャジャとかさ、って知らないか」
「もちろん知らない」
「だから今はランスも受け入れられてきたってわけ。彼自身凄い人であることは確かだしね。でもフランス人のスター不在は嘆かわしいね。ヨーロッパじゃ、自転車選手になるのが子供の夢のなかでも人気のあるものの一つだって聞いたけど」
「まさか!」
「嘘?子供ってサッカー選手と自転車選手になりたいんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん」
「まぁ、イギリス人が自転車に興味がないのかは良くわかるけど。いいライダーがいないから」
「聞いたこともないね」
「昔はいたのよ。デビッド・ミラーっての。でも薬物使用で逮捕された」
「非常に英国人らしいね(笑)」
「彼は生まれは香港だったんだけどね」
「じゃあ正当な英国の遺伝子を受け継いでいないわけだな」(それは彼自身にも言えることなので、英国に対する皮肉)
ここでウルリッヒが遅れ始める。
「ああ、ウルリッヒが落ちていく……」
「負けたな」
「私は彼が負けてるのを見るのが好きなの」
「何で?負けている人を見て何が面白いんだよ?」
「彼はツールの2位に5度なっている人なのよ。ランスさえこの世にいなければ、彼はチャンピオンだった。それでも毎年果敢に向かってくるところが好きなのよ」
ヴィノクロフがグループ・ラスムッセンからアタック。セビリャが下がってウルリッヒを引き始める。
「これが好きなの。ヴィノクロフはもう完全に遅れていて、いかなる勝利も手に出来ないのにアタックしてる。山ではウルリッヒより強いかもしれないセビリャが献身的に彼に尽くしている」
ヒンカピー優勝。感涙しかけている私を見て引いているイギリス人。
「ランスのアシストで凄いいい友達でもある人なのね。アメリカの中でもトップにはいるいい選手。」
「へぇ」
「で、いつもジョークを言っているらしい。なんか、元気?って聞くと、ノー・チェーンって返すらしいよ、チェーンがなかったら、その、」
「ペダルをこぐのが楽だから?変わったユーモアのセンスだね」
アシストが山岳で勝つのはとてもレアなことだと説明すると、
「なんで?ペースメイカーなんだからアシストはいつも先にゴールするんだろ。だったらアシストがもっと勝ってる筈だ」
面倒なので集団ゴールのシステムを説明し、山でしか差がつかないこと、山ではアシストの力をあまり借りないことなどを説明する。
ヒンカピーのインタビューはかなり真面目に聞いていた。表彰台。
「ひんかぴぃ……って、なんというかバカな名前に聞こえるよ」
「なんて?ひんかぴーは普通よ」
ポポヴィッチ表彰式。
ポポヴィッチの方が変な名前」
ポポヴィッチは普通だよ」
かみ合わない会話。
「ひんかぴー……ひんかぴー?ひんかぴー」
気になる名前らしい。
表彰の時拍手をしていたら
「もっと大きくたたかないと聞こえないよ!めちゃめちゃ遠くでやってんだから」
と注意された。
 
最後、帰り際
「自転車楽しかった?」
と聞くと、下を向いてノーと言われた。ミッション失敗。