アラビアのロレンス 私が帰結するのは映画版ではないのね

はぁ、やっぱあたしは映画ってメディアと相性が悪いな。
4時間かけて見たLawrence of Arabia(アラビアのロレンス)、悪くはないんだけど、神坂智子(こうさか・ともこ)版の漫画、『T.E.ロレンス』が行った解釈に洗脳されてしまって、映画の方は粗探し的な目線で観てしまった。砂漠とラクダ映画、ねぇ。
 
神坂版はすばらしい。文句なく今年読んだ少女漫画のなかで最も感服した作品だ。敬虔なカルヴィン主義者である母が産んだ5人の息子。母は全員宣教師にしたいと思っている。母は本当は家庭教師として雇われた身で、ロレンス達の父にあたる男とは不倫関係であった――。ロレンスは絶望する。

自分の良心の呵責を……拭えない罪の意識を
それを犯してつくった子等に
彼女はつぐないをたくしているのだ

ある日、ロレンスはいやがる母を抱く父を盗み見てしまう。母は「だめ……だれかにみられたら わたし……不道徳な女にみられるわ……」といいながら陶酔し、父はそんな母を喜んで抱く。ロレンスは抑え切れない吐き気を感じ、涙を流して雨の降る庭に倒れこむ。

そうやって五人も罪の子を産んだのか
一度や二度ならまだしも……五度も!!
あなたのいう罪の子をその道徳心で……

 
それで、神坂版ロレンスは「お約束」通り、女性ではなく男性と性的交渉を持つ人物となる。
はじめは厭々だったが、それからアラブ男性に恋をしてしまう。だからといって自己嫌悪は消える事なく、恥ずかしいことだと思いながらも、女性と関係を持つことは、幼い日の母の記憶が絶対に許さない、と。この母との関係がすごいんだけど、それは後日改めて描くとして――だって最後まで読み終わってないのだもの――史実をここまで〈萩尾的〉に解釈するなんて、やるなぁ。*1
 
しかし、そのお陰で映画版のロレンスも当然ゲイだろうという謎の思い込みが働き、さらにさらに、いつも隣にいるアリ*2が自分的超イケメンで、あんたはアラブのアルメイダですか?なんですかその不完全な格好良さは?どうしていつも黒衣を?的な人だったので、脳内で完全に「この二人がくっついて終わるんだろうな」というまったりとした妄想が。あの雄大なテーマと砂漠の背景を見ながらそんな予感をひしひしと感じていたんですよ私。外れたけどな。
 
でもロレンスが男性に犯されるシーンは、すごーくオブラートに包んでありますが、存在します。監督が、あのシーンでは実は性行為があった、って認めたんだって。はっきり描けよ。
面白いのはマンガ版ではロレンスを犯すのはアラブだし、
アラブ人が略奪を繰り返すのを見て
「アラブは勝つたびに腐っていくね
 それなのに僕は何も出来ないで見ているだけだ
 僕等は多分ずっと勝つよ これから勝ち続けて……」
って、アラブが汚いことを認めてなお、気丈にアラブを指揮してんだけど、
 
逆に映画版のロレンスは「何故砂漠に惹かれるのか?」と訊かれて
「It's clean(清潔だから)」
って答えるのね。
で、アカバ攻略のすぐ後に人を2人殺して、それを楽しんだ自分が厭になってもう帰ろうとしちゃう。
漫画版ではどちらかといえば性的な倒錯を中心に描き、人を殺すことの葛藤はわりと素直に受け入れる、汚れることのできるロレンス像を描き出しているのに対して、映画版では暴力に魅せられるところが問題となり、ロレンスはもともと美しい存在として描かれているんだよね。それじゃ駄目よねぇ。
 
ロレンスの話し方が篠井英介そっくりな一本。

*1:しかも掲載誌がWINGで、現連載誌がflowers!

*2:オマー・シャリフ