ダメだったよどうしよう?『ハッシュ!』

ハッシュ! [DVD]

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カテゴライズが大嫌いな私が唯一歩み寄ってもいいかな、と思えるのがクイア理論なのに、『放浪息子』の二鳥修一とか『ハッシュ!』の朝子みたいな人種が私の理想をいつも打ち破る。この手のTGモノって苛々しちゃうんだけど、TGモノだってだけでなんだか批判を許さない雰囲気があったり、overratedされたりしている気もする。でも私は朝子みたいな自律の出来ない人が自分の親だったら嫌だなァ。何が21世紀的母親像だかわからない。この人の長所って近代的一夫一妻制に拠らない非モノガミストだっていう所しか見つけられないや。てか、それってヘテロ/ゲイみたいな個人の特性だから、長所でも何でもねーか。
一応、あらすじを。モテないゲイの直也(高橋和也)はある日ゲイバーで勝裕(田辺誠一)と出会い、不特定多数との交際をやめてお互いをステディとする。ある日、職場にバレないために遠くで直也と昼食をとっていた勝裕が何気に傘を貸した女が朝子(片岡礼子)。そして傘を返しにきた朝子は勝裕に、子供が欲しいので父親になって欲しいと持ちかける。勝裕も、父親になれそうな顔をしていると言われてそのことを真剣に考え始めるが――。
一番好きだったシーンは、勝裕が兄に父を殺そうとしたことを告白するシーン。田舎の実家に帰省して、兄とその嫁の保守的家父長制下の食卓風景を見て、勝裕の中で何かが疼いたのだろう。彼は、兄を父に見立てて、それに対する殺意を告白する。だからこそ、最後に勝裕はむせび泣いたのだろうな、「俺が殺した」と。
↑というと、なんだか面白そうな話に見えるけれど、実際はそうでもなくて、何か物語の間の因果関係のようなものが薄いのだ。「あのときこういう行動をとったので、ここではこういう事象が起こる」「あのときこう発言した人だからこそ、ここではこのように考える」みたいなのが映画の中だけで完結してなくて、そういうのが全部キャラクターの設定に由来しているのがとっても邦画な印象。
さて、問題は朝子なんだけれども、彼女の対に置かれているのがその兄の嫁である容子(秋野暢子)。この人は、自分が古い価値観から逃げ出せなかった為、兄に奉仕する古風な嫁役を演じさせられているからこそ、朝子のような人間が親になるのが許せずに反対する。私は、片親だからといって私生児だからといって決して子供が不幸になるとは思わないけれど、この人の生活ぶりや倫理観、話口調、服装、そういうものが好みじゃあないんだ。この人の主張としては、「この(ゲイの)二人を見ていると、わたしも手をつないだりしたいなと思った、そういうのが取り戻せるのではないかと思った」なぞというんだけど、それに対しての努力も足掻きも見えなくて、ただ彼らにくっついているだけじゃないの。
とりあえず、ゲイは非モノガミストが多いというのはこの手ではあたりまえの設定なんだけど、そういうものなのかなぁと疑問を感じた一本。
そうそう、これは対『ブロークバック・マウンテン』で見たんだけど(あ、もちろんマイ・プライベート・アイダホは見たお)、ユタ州では上映中止の館があるそうで。このオバサン、同志……!あたしもジェイク・ギレンホールが見たいのよ!