人物の描き方について(軽度のネタバレ)

ミュージカルを先に見た人、映画から見た人、両方から賛否両論、まぁまぁって感じのの評価が多くて正直ちょっと期待していなかったのですが、だから逆に良かったのかも知れません。舞台は舞台で、映画は映画で素晴らしいと思います。って、映画大嫌いな私が言うのですから、それは「ミュージカルの雰囲気を損なわず、映画なりの良さが出ていてよかった」という感想に近いものなのかも知れませんが(あくまで基本はミュージカルなのかもしれないということ)、ミュージカルも映画も人並みにしか見ないので、ちょっとわかりません。どうも映画について褒めるのは慎重になってしまいます*1とにかく、内容が良くても、メディア間の移植に失敗することはままありますが、この場合ストーリーと関係性に加えた若干の変化は映画という表現にピッタリと合っていたように思えます。
 
簡潔に言えば
若くて美しい肉体にタイトな衣装、マントを翻す機敏なファントムは映画向き
 
ってことです。
アンドリュー・ロイド・ウェバーはそもそも舞台向けに『オペラ座の怪人』を恋愛中心に翻案したわけですが(そして原作をよりコミカルに仕上げたのがケン・ヒル版)、舞台ではクリスティーヌは原作と同じく本当のティーンエイジャーに、そしてラウルとファントムの年齢がもっと近づき、怪人も父親的存在から遠ざかって完全な恋愛対象となり、三角関係がよりはっきりとしています。みようによってはストーカーな怪人ですが、今回は怪人の過去を挿入することでその伏線を説明し、また恋愛の要領の方もだいぶ良くなっているように感じます。舞台だと必然に感じた『All I Ask Of You』も、クリスティーンの追い詰められた心情に、ラウルのうまい説得がじわじわと効いていく様が見て取れて面白かったです(笑)。
 
また、みなさん仰っているのは『Point Of No Return』の素晴らしさですが、これには本当にびっくりしました。そりゃラウルもああなるわ、と。ジェラルド・バトラーエミー・ロッサム、そしてウェバー氏もこのシーンが最も気に入っているそうです。舞台に比べてとてもセクシーで、現代的ですが、クリスティーヌとファントムの陶酔は見ているこちらも引き込まれそうなものがありました。
これに付け加えたいのが『Music Of The Night』のファントムとクリスティーヌの関係です。これは『Point Of No Return』の前哨戦的な関係性で、ラウルと再会したことなど忘れてファントムの声に支配されてしまう、というシーンなのですが、そこでファントムとクリスティーヌは触れ合うだけで至福の表情を浮かべます。クリスティーヌにとってはファントムの音楽に触れることで魂を奪われてしまい、そしてファントムにとってはクリスティーヌの肌に触れることだけで彼にとっては待ち焦がれた瞬間であることがひしひしと伝わってきて素晴らしかったです。軽くネタバレですが、→*2と思いました。

*1:映画が嫌いだから。

*2:マスクを取るシーンも怪人の陶酔する表情を見れば自然だなぁ