超タクシン派のタイの友人の見解

lepantoh2006-09-26

タイと日本の遠距離で、一年来に渡って友情を築いている友人がいる。夏には日本に来たし、メッセンジャーでしょっちゅう会話している。その彼は、こんかいのクーデターに否定的なばかりか、タクシンの熱烈な支持者でもある。海外の政治事情なんて、アメリカ以外何もわからない私は、それなりにニュースを見たりして調べたが、世論調査でもタクシン氏はもはやあまり支持されていないようで、彼の意見がどれだけの正当性を帯びているのかはわからない。けど、日本ではまず耳にできない意見だと思ったのですこし面白かった。
ちなみに、彼が言っていることのソースは私は取っていないし、彼の主張も私の理解によって捻じ曲げられている部分があるかもしれない。私にとってこれは、テキストの正確性や政治的な主張の正当性の問題ではなく、彼の意見の意外性と一次的な肉薄感の問題。


彼はタイの中でも「夢の大学」といわれているA大学に通うブルジョワ。親は医者。専攻は英語。クリスチャン。性格はいたって温厚、真面目で筆マメ。クーデターが起こったときにも真っ先にメールしてきてくれた。俳優だったがチヤホヤされるのが嫌ですぐ辞めた。バンコク人によくありがちなハーフ。
まず最初に、彼は王政があまり好きではない様子。王そのものの人格や存在意義を非難するまではいかないものも、それが民主主義の妨げになると常日ごろから訴えていた。日本の民主主義への彼の率直なあこがれの眼差しにはさすがに辟易したが、「王の悪口をいったら逮捕されるし、逆に逮捕された人も王の権限で保釈される」といった強大すぎる権力への反発はよく聞かれた。
そして彼にとって、王の持つ権力を取り戻そうとした人こそがタクシンのようだ。タクシン政権を揺るがしたニ大疑惑である汚職と株取引についても、彼にかかるとこうなる;「彼がしていることが汚職なら、ぜひしてもらいたいものだね。国のためなんだから」「彼は大統領になる前からビリオネアだったんだ。なのに、今さら金を稼いでどうなる? それに、稼いだからといって何なの?」。このような意見の大本には、「タイのメディアはSUCKSなんだ、タイの天気予報みたいなもので」という彼によるマスコミ不信があるようだ。「マスコミでは絶対に国王の悪口はいえない。国王がどれだけ素晴らしく寛大かを毎日放送しているんだ」。そして、タクシンの疑惑は、そのもの自体はそこまで大きく取り上げるものでもないが、「タクシンは国王に楯突きすぎたから」、マスコミがネガティブ・キャンペーンをっやっているのだ、という理解になる。「表面にでてこないレベルで、王に対して否定的な意見を持っている人は沢山いると思う。ただし、それを言う勇気がないだけで」と彼はいう。同時に「本当に多くの人が、メディアの所為で盲目になっている」とも。
「タクシンは首相にならなければ、こんなに辛い思いをすることもなかったと言ってた」と言う彼の言い分は、考え方それ自体としては筋が通っているように思えた。ただ事実とどれだけ噛み合うかは不明。たしかにマスコミは王族の系列企業らしいが、お金は地方での買収に使えるので稼ぐ意味はある、と真偽が入り乱れている。それと、日本の状況と比較してみると非常にこんがらがる。メディア不信はネット人の大好きなテーマだが、それはどちらかというと現政権の支持層によってなされている気がする。インテリは王政を嫌うという点では割と符号するかも。


ともかく、わたしたちが当たり前のように享受している民主主義を失った友人はなんとも失望しているようだった。

一威の寂し笑いをモリエ笑顔と名付けたい−モリエサトシ『猫の街の子』レビュー

私の好きなモリエサトシ!を書いて以来案の定Google先生も御贔屓にしてくださっています(5番目)。はてなだからか、何故かけっこう検索上位に表示されるんですよね。モリエさんの記事に関してはそれを睨んで書きました。
さて、大きさも変わって月間になった『別冊花とゆめ』に連載された『猫の街の子』の第3回。私の予想では扉で単行本化の発表だったのですが、見当たりませんでした。どれだけ収録されていない短編があるのかと。うおー、はやく昔の作品が読みたいです!
さて、今回は一威目線で話が進んだんですが、とにかくたまんないんですよね。なにがたまらないって、一威みたいな(モリエ的)紳士で、(モリエ的)イケメンで、(モリエ的)女たらしなのに、(モリエ的)叶わぬこいばかりしているというところが。そしてその笑顔が。辛いことがあってもいつもほんわかと笑っているモリエヒーローの強かさにはいつも心惹かれます。そして今回は、その笑顔の「質」そのものが論点になっていて、ああ自覚的に扱っているんだなぁと感心してしまいました。
モリエサトシは本当に断絶を描くのが上手です。それゆえ愛も、また際立って美しく思えます。


扉絵の「彼の恋はいつも不毛だ」で既にもうなんか泣いた一本。