イズァローン伝説 竹宮惠子 文庫全9巻 ★★★★☆☆☆

大まかなストーリーは「デビルマン」「寄生獣」と同じ構図で、魔がヒトを廃そうとする様子を描いたもの。魔の頂点に君臨する「魔王」ティオキアは両性体で、しかも元・ヒトだった。ティオキアの中で魔との葛藤が繰り広げられ、ついに弟・イズァローン王ルキシュと相対する――といったもの。
うーん。途中までは竹宮作品のなかで一番好きだと思ったんだけど……どうも竹宮さんの長編作品って、話が破綻している感じを受ける。まずキャラクターの位置があまりにコロコロ変わりすぎ。重要そうな人物がどうでも良くなったり、その逆も。人物の肉付けが、BASARAなんかに比べて薄すぎる気がする。フレイアもどっちつかずだし、ルキシュ王ですら。それが人間らしさ、といわれればそうかも知れないけれど。
最大の原因は魔王ティオキアが、魔と葛藤しているんだけど、その葛藤の様子がわかり難過ぎること。自分でもようワカランうちに魔に操られているから、ティオキアの人格は行ったり来たり、娼婦的と純真と悪魔的と、何考えているんだかサッパリわからない。「感情移入」して読むタイプの私にはもうサッパリです。長すぎるのも難。最後の方など、ティオキア何回死んでるんですか?同じ展開ばかりで頭が混乱します。
それでも、もう一人の主人公、ルキシュ王の、フレイアに対するストイックな恋愛描写はとても良かった。森で一度だけ会った少女に恋をしたまま、顔も知らぬ相手と政略結婚するのだけど、それがその少女だった。ルキシュ王は驚き、喜ぶんだけど、婚約者と引き話されたフレイアは徹底的にルキシュを拒絶する。

たとえ民衆に向けられたつくりものの笑みでも
それがわたしをこれほどまでに喜ばせると
どうやって伝えたら――

その感情の新鮮さ、美しさなんかはホント、上手いなぁ。アスランとパイヴァ編に通じるものがある。あと、この頃の竹宮さんの描く輪郭は本当に綺麗。頬に丸みがあって、だけど知的でキリッとしている。そのフレイアも、王妃として知的で美しくて、なまじっか魅力的だったために、婚約者アスナベルとの間をフラフラしているのが段々鼻につくように。「天ない」の晃もそうだけど、魅力的なキャラクターがそういうことをしていると、本当にイライラするんだよなぁ。