萩尾望都論再考

自称萩尾望都研究家の私ですが、全然萩尾望都について書いていないので、ここでまとめて指針を示したいと思います。といってもはてな上でやる以上、萩尾に詳しい人ばかりではないと思うので、そうではない人が見ても面白いモノを書けたら一番の理想です。

  • 萩尾作品における救済者(一応済)→id:lepantoh:20031230
  • 萩尾作品における少年と出産(一応済)→id:lepantoh:20031231
  • 萩尾作品における支配者(ポー大老、サイフリート、「シ」、ペーブマン、メイヤード、グレッグ)
  • 萩尾作品における調整者
  • 萩尾作品における主人公
  • 萩尾作品における殺される少女たち(トーマ、メリーべル、かわいそうなママ、メリーベル、アラン、ル・パントーとマーリー2、ユーシー、トリル、バレンタインの娘、サンドラ)


とりあえずは『主人公』と『支配者』について考えることになるでしょう。とりわけ『支配者』については面白くなりそうで、『救済者』でオスカーとイアンが軸になったように、こちらはペーブマン(スター・レッド)とメイヤード(マージナル)が軸になってきます。読んだことがない方もいらっしゃるでしょうから軽く説明しますと、ペーブマンというのは、火星の人工植民都市クリュセの管理人で、超能力を使う火星人に指を吹き飛ばされ、恨みに思っているESP・火星人排斥者です。彼のことを宮迫千鶴は「男性原理」と分類します。*1
ところがマージナルでのメイヤードというキャラクターは、ポジション的にはペーブマンと似通った、女が生まれない地球の管理人で、ペーブマンと同じメガネであるにもかかわらず、こんなキャラクターなわけです。

メイヤード:
『女がいない世界はここだけだ 何もかも作りごとだ!そうさこのわたしの体のように ああうっとうしい!この作りごとにはうんざりだ!(中略)
わたしは進行性の病気をいくつもかかえてる 何度も遺伝子治療を受けた わたしは女性ホルモンの投与を受ける 女性ホルモンが病気の進行を遅らせるからだ 必要でもない胸がふくらむ 女のいない地球で 不思議なことに少しずつ女に近づいてゆく 実にばかばかしい…』
アシジン:
『……おまえは言ったな ここはあわれな世界だと ここはマージナル 男ばかりの不毛の世界だと あれはおまえ自身のことなのか』

ああメイヤード様(涙)。
ペーブマンの場合、指を吹き飛ばされたという私怨とコンプレックスが彼の火星人排除を正当化しています。これは読者には理解しがたいものです。ところが同じ立ち位置のメイヤードは、萩尾作品の根幹にある女性性の忌避により地球破滅プロジェクトに走らされている、という「男性原理」の対極にいる人物だったのです。それは少なくとも『マージナル』の中では私に最も迫ってくるものでした。
また、『マージナル』の中にでてくるアシジンの美しさに私はとてもひかれたのですが、それは彼が、“メイヤード”たる私が憧れて止まない男性原理の美しい面を持ち合わせていたからです。作中メイヤードがアシジンの均整のとれた身体に悶々とするシーンは、メイヤードの失われた男性性への歪んだ心情を表現していて本当に見事です。
サイフリート、ポー大老、ペーブマンといった単なる「支配者」が、メイヤード、ルシアン、イグアナの母を経てどうやって“グレッグ”に行き着いたか、というのを書ければと思います。
 

*1:ちなみに宮迫千鶴はエルグやラバーバにも男性原理をみており、男性原理そのものを支配者原理や悪に結び付けているわけではありませんので誤解なきよう