萩尾望都と新選組……ネタバレ注意報

新選組、とはいっても、架空のキャラクターである深草丘十郎と鎌切大作を中心とした物語であり、おなじみの沖田や土方らはヘンテコに思える造形でちょっとばかし出てくるだけである。
しかし坂本龍馬だけは違う。彼は深草にこびりついた古い世界からの脱却を手助けしてくれる人物である。その古い世界が、彼の父を殺し、彼に敵討ちをさせ、そして彼をまた敵討ちの対象とし、最後には彼に大作を討たせるのだ。坂本は最後に、深草アメリカへ渡る手助けをしてくれるが、萩尾望都の一連の作品は、「アメリカへ渡りたいけれども渡れない」という主人公を描いてきた点は興味深い。

甘いもの大好きの大作(死の予感)は丘十郎(新たな未来の萌芽)にあこがれ続ける。丘十郎は生き、存在し、新世紀を見続けなければならない。それが大作の遺言だ。

ところがやはり、これを萩尾望都に描かせると、エドガー*1とかマーリー2/エロキュス*2になってしまう。その悲しさ。
何より私が「ほー」と思ったのは、死を予感する大作への萩尾の考察である。彼は全ての終末を予期している。沖田総司を見て、彼は早死にするという。新選組が滅びることも、やはり予期している。と、いうことは彼は自分がそう長くなく、いずれはスパイ稼業がばれて、丘十郎に斬られる事をどこかで承知していたということである。
スター・レッド』において、火星は魔の星アミである。フォボスが粉砕する。それでも火星人は火星を動かない。『銀の三角』に出てくる銀の三角人は予知能力を持っている。彼らは自分たちの星がやがて滅び、最後に生き残ったたった一人の子孫――ミューパントーが誰もいない惑星で一人死んでいくのを予知し、絶望して能力を封じてしまう。一角獣種シリーズ*3において、髪の毛の真ん中に赤いたてがみをもつ一角獣種は、簡単に拒食症に罹りコロリと死んでしまう。死と隣り合わせにいる種。萩尾が創造する人種はいつもそうであった。
萩尾望都はこの作品の中で繰り返される喪失と再生を見ていて、自らの喪失を止めることが出来るかもしれないと思い、漫画家になることを決意したという。彼女の作品のなかで主人公はきまって何かを喪失し続けるが、それが彼女自身の回復につながっているのだろうか。「この人は、なにかとてつもなく大きなものに仕えている人である」というのは中島梓の言だが、いつまでたっても何かを失い続ける彼女の世界は、狭いようでとても底が深い。
 
 
最後に個人的な話だが、私のしている「過剰な読み」行為は萩尾さん本人にとって御迷惑な気がしていたが、彼女自身相当な「読み手」であり、解説好きだということが判明した。きっと私の失礼な行為も許してくださるであろう……ほっ。

*1:ポーの一族。永遠に14歳の放浪の人。愛すべき人々を失い一人生き続けなければならない

*2:銀の三角。世界を滅ぼす悪夢を全て自分の中に収め、チグリスとユーフラテスの岸辺で永遠に生き続ける

*3:A-A'、4/4カトルカース、X+Y