ご意見を頂きました。

# ぽち 『「トーマの心臓」でキリスト=オスカーはちょっと違うと思う。それが有り得るならば、オスカーの元へユーリを行かせたエーリク=キリストについても言及しなければならない。しかし、そうではなく、この場合、贖罪を負って死んだ者がキリストだと考えるべきである。つまり、トーマ=キリストの構図が一番しっくりくるのではないだろうか。トーマは土曜に死に、月曜に遺書によりユーリの中に復活する。キリストは金曜に死に日曜に復活している。曜日は違うが3日後に復活した点では同じである。更に、キリストとは贖罪を負って死んだものではないか。トーマは自殺したが、自殺はキリスト教では罪である。つまり、自分が罪人となり、ユーリに自分を愛させることで自分の翼をユーリに与えているのではないか。』 (2004/06/10 09:25)
id:lepantoh:20031230#c

ご意見ありがとうございます!萩尾さんの作品を読み込んで、意見してくださる方は意外と少ないので、とても嬉しいです。
ただし、私は自分の見解を曲げる必要はないと感じます、ぽちさんの意見を肯定しても、私の見解とは矛盾は生じません。というのも私は、オスカーは神であるといっているのではなく、オスカーは私たちと同じ、ユーリに対してフィリアしか持ち得ない者である、だがユーリに必要なのはアガペーであり、それを唯一持ちえるのはトーマのみである(エーリクは持ち得ない)。だからこそ最後にオスカーは神の仮面をユーリによって被せられ、不幸な勘違いによってもう一度彼は置いていかれるのである、と言っているのです。該当部分↓

私たちがやるせないのは、私たちがエーリクやオスカーであり、ユーリに対しては彼らと同様にフィリアしか持ち得ないからだ。ところが彼は、多くの友人に愛されていてまだ満ち足りない。彼に必要なのは神の許しなのである。そこでオスカーは、神の仮面を被せられることになる。

トーマがキリストだ、という見解は、いままで多くの人によってなされてきました。私もそれを否定しません、が、ずっと見過ごされてきた、オスカーが神の仮面を被せられたことに比べて、さほど重要なことだとは思いません。もし、無垢=神の殺人系譜について、トーマ、『銀の三角』のル・パントー、『半神』のユーシー、『残酷な神が支配する』のエリックなんかを語るときには、重要だと思いますけどね。
そしてオスカーが神の役割を果たしていたことは、否定できないと思います。

――ぼくはずいぶん長いあいだいつも不思議に思っていた――
なぜあの時 キリストはユダのうらぎりを知っていたのに彼をいかせたのか――
”いっておまえのすべきことをせよ”
みずからを十字架に近づけるようなことを
なぜユダをいかせたのか
それでもキリストはユダを愛していたのか――?
ユダもまだキリストを愛していたのか
きみも―また知っていて
だまっていた だまって見ていた ぼくの舞台を

ぼくがみずからをあわれんでいたあいだ――(文庫422p)

ここでは明らかにユーリ=ユダ、オスカー=キリスト、の構図が読み取れます。

「もし彼が死んでしまうんなら 意識のなくなるまえにぼくはどうしてもいってやりたいことがあるんだ――愛してるって!大声で耳のそばでわめいてやる」
「……校長先生を愛していた…?…でもきみはそんなそぶりなどすこしも……」
「じっさいぼくはいい生徒でもいい息子でもなかったからね…!」
「きみの手のうちはそれ?…ずっとまえぼくにいった…」
「そうだよ ぼくのカード ぼくのジョーカー でもぼくの望んだことは――気づいてくれることだったんだ きみでも彼(校長)でも ぼくが愛してるってことに」
「…許していた…?」
「うんユーリ ぼくは待っていた それだけ」
(文庫426p)

上の部分のやりとりも、「神さまは皆を愛してくれていると気づいたんです」、というユーリの結末と呼応しています。もちろん私の方も、「何もかもを知っている、そして見ぬいている――それは神である。」というややこしい書き方をしてしまっているのですが、それはオスカーが物語り上で「全てを知る」「待つ」という役割を果たすことで、そのような誤解を招いてしまっている、ということを示すためのもので、基本的な見解は、神の仮面です。
そのような読解なしに、『訪問者』は理解できません。また、それ以降、萩尾の作品の中でハリボテの神(百億の昼〜やマージナルのマザ)、もしくは神の仮面(訪問者、メッシュ、残酷な神が支配する)ということが問題になる契機となるのがオスカーだと考えます。
この物語はトーマという本当の神と、オスカーという擬似神の対立の物語、ということも出来るかもしれません。
もちろん、この神の性格は、先ほど述べたユーシー、エリックに引き継がれると同時、オスカー(訪問者)、そして支配する残酷な神グレッグへと派生していくのですが…。

問題はエーリクですが、わたしはユーリがエーリクにした行為も、エーリクにとって、あまり良い行為だとは思っていません。彼はトーマと見做されることを嫌がっていましたから。
そんな感じです、長くなってごめんなさい。