壬生義士伝
新選組！ショックをうけて見てみましたが……
純朴な田舎侍って時代物ではデフォなのですか？
いや既視感がすごくて。たそがれ清兵衛が私ダメだったんだけど、違う映画だと解っていても既視感が。なんかもう、純朴な人が自己犠牲の果てに死んだらそりゃ泣くよね的な……この映画の雰囲気は……ごめんなさい苦手。
純朴だけど腕は立つ、やたら謙遜する、家族を大事にする男とか……男のロマンなんですか？ごめんなさいもうさっぱりわからない。
こういう純朴さと田舎臭さの前では、多分あざといっていう評があざとくなっちゃうんだろうけど敢えて言います、「あざとすぎ」るよ。たそがれ清兵衛とは比較にならないくらいあざとい。もう必死。自己犠牲描くのに必死。自己犠牲ってそんなに美的なものなの？受けるほうはうざったかったりしないの？的な疑問は斎藤一が「俺はお前が大嫌いだ！」っていって首締める*1シーンに集約されてるんだけど、それが最後ジジイになった斎藤がおもさげなござんした、って吉村と同じ台詞ゆってあっさりと自分と吉村(純朴田舎侍)を同化させて終了。全ての否定を覆すは、純朴という装置なりってか……。
たしかに人の心に残る男ではあるけど、こいつを描いてどうなんの？
こんな人間いるの？
と思わざるをえないです。
あざとさは吉村が死ぬシーンで極まります。吉村(中井貴一)は虫の息で独り言を延々と言い続けるのです。しかもそれが全部家族がらみの些細なこと。泣けるかと。吉村を間接的に殺す男を三宅祐司がやってるんですが、彼の葛藤がせめてもう少しあればまだ良かったかも。
でまた最後の親近相姦みたいな血縁関係がね。だめだった。
役者は新選組！と被りまくりです。佐藤浩一の斎藤一をはじめ堺雅人の沖田総司、細かいとこだと堀部さんとかね。佐藤さんは微妙に演じ分けてる感じ、堺雅人は話し方や声を立てた笑い方がかなり違っていました。本人も楽しかったらしいですね、スタジオパークのレポ見ると。私は見逃しました……死にたい*2。で決め顔はやっぱりニヤニヤ。真剣勝負を提案してニヤニヤ、御用改め叫んでニヤニヤ、囲まれてもニヤニヤ、人切ってニヤニヤ、喀血してニヤニヤ。唯一すき焼き食べてるシーンだけモグモグ。（以下訂正：コメントありがとうございます）袈裟懸けじゃなくて串刺しに人刺してゆっくり振り向くシーンは恐い。ニヤニヤしてんだもん。ニヤニヤホラー。とにかく堺雅人旋風はニヤニヤ旋風だってことです。この人がニヤニヤさえしなければ京極堂に推すんですが*3ニヤニヤしてんだもんなぁ。不機嫌そうな顔なんてできないだろうなぁ。久保竣公ならどうだろう。ニヤニヤ。
トロイ見て心底思ったことでもあるけど「これだから映画は嫌いなんだよ」
多分この評も見る人が見れば「心の貧しい人なんだな」って思われそうで。まぁそうなんですけど(笑)。
純朴な田舎侍を相手にした時、自らを同化させて優しい気分になれる人と、自分の貧しさとか汚さをとことん痛感させられる人がいて、斎藤は後者だったのに時が経って前者になったわけですよね。
ターニングポイントは自己犠牲。義のために鉄砲に立ち向かう吉村を見て斎藤は吉村に自己の理想を見いだす。決定打は三宅祐司の息子の思い出話。吉村の最後を聞いてついに斎藤は同化する。切腹。老年。経年。
クソくらえ(笑)。
私はまだ若いんだ畜生。馬鹿にされるくらい若いんだ。そんな心境はわからないしわかりたくもないんだ。明日からまた何人もの鴨を食べ続けなくちゃいけないんだ。なのにこんなもん見せやがってぇえぇ！これを描いてる奴は自分でエロ漫画描いて抜いてるようなもんだぜってゆっちゃる！この映画版プラネテスがぁ！
……私って心の貧しい人だな(笑)。
一言でゆうと、「純朴な人などいない！」
それ以上に人が汚れてゆくのには葛藤があるのに純朴ってゆーのに同化するのにはどーして危機感を抱かないのだ？純朴なら殺していいの？家が貧しければ殺していいの？人情深ければ義があれば殺していいの？
もう一つの可能性がここにある。
お願いがあるのです。約束してほしいのです。私は二度とエリックに会いません。エリックと一緒にきてはなりません。私はあのときエリックが、バレンタインが殺すならぼくも殺すといったとき、身ぶるいするほどうれしかった。彼が私の殺人の共犯者になるというとき、わたしは“そうだ これでいいんだ わたしたちは一緒なんだ”と思った。でもその一秒後そう思った自分に青ざめました。許されてはならないはずのわたしに、エリックはぼくも殺すという。エリックは幼い…子供です。純粋で無垢…エリックはわたしの――神です。わたしはわたしの神をわたしの殺人の共犯者にしてはならないのです。彼は殺すことの意味すら考えず、純粋に殺すでしょう。許されたわたしは夜の夢の中で“これでいいんだ”とあの子を殺すでしょう。それが――こわい。不思議ですね、人間は許してもらうために神を創造したはずなのに、わたしはわたしを許す神から遠ざかる。私を許す私の神は幼いのです。 愛をこめて バレンタイン 『残酷な神が支配する』13巻*4
