統率の取れた24年組スピリット 『杖と翼』1〜5 木原敏江

杖と翼 1 (プチフラワーコミックス)
画像がないのでとりあえずリンクだけ。実は初木原敏江です24年組についてぐちぐちいってる割には。すみません。これから読みます。
とにかく上手い。
美味しいとこ取り。
世渡り上手な作品。
これは私が少女漫画について書くきっかけとなった大学の先輩の方に『天馬の血族』と一緒に教えてもらった漫画なのですが、はっきりいって萩尾望都竹宮惠子よりよっぽど読みやすく、親しみやすい。女性の自立とか、意思を持った行動を描こうとする一方で、舞台はヨーロッパなのだから、綺麗な服を着せたいし、格好いい男とつき合わせたい、というところを上手くおりあわせて作ってあるなぁと思います。萩尾望都にはこれができないのですね。なぜなら彼女の主人公は、男性的か醜いか異端児かフリフリが似合わないかで、仮に似合ったとしてもそういうものに興味がないポーズをとるし、そしてフリフリな世界の住人は彼女の最大の憧れであり同時に敵だから。そのジレンマを克服するために、萩尾望都は彼らを殺す一連の実験を行い続けたのです。
 
さて、その相反するようなしないような二つの欲望、つまり「自立した女性」と「華やかな貴族的生活」をこの作品はどのように実現しているのか、ということです。まず簡単なあらすじを。
主人公のアデルは元貴族で、フランス革命にも賛成しています。ところが革命後のフランスでは貴族は処刑されるため、同じく先進的だった貴族の母を頼って?(うろ覚え)とりあえずドイツに行きます。母はドイツ人の公爵と結婚しています。ところが母は死亡、そしてアデルはフランスにもういちど密入国し、革命政府で働く初恋の人、サン・ジュストを手伝いに出かけます。 
以下ネタバレ。
まず、「自立した女性」、つまり革命に賛成し、自由を求める精神をアデルは作中で存分に発揮しています。そして見事サン・ジュストの秘書として働くことを許されます。ところがサン・ジュストにはもう婚約者がおり、アデルはアデルで、国外に要人を逃がす「逃がし屋」のリュウと恋に落ちます。アデルは貴族であることがバレ、刑務所に入るのですがリュウサン・ジュストのおかげでなんとか脱出し、サン・ジュストの命令で見逃す代わりにもういちどドイツへ送り返されます。
そのドイツの義理の父は、反革命派なので、華やかなパーティーなどを開きたがるのです。そこで主人公は

もう…お義父様の命令でなければきたくなかったわ・・・
私は夜会なんて嫌いなのに・・・
私は革命支持者なのよ!ぜいたくするより税を軽くすべきよ!

なんて思っているのですが、作者としてはパーティーの様子、着飾ったアデルとリュウ、そして言い寄られる二人が書きたくて仕方ないのがもう見え見えなんですよ。だから、ここにちょっとした嘘がある。でもそれで、作者も読者も喜ぶことを知っているんですね。
そういったやりくりが本当に上手いんですよ。
オスカルみたいに理想の為に死ぬのではなく、メッシュみたいに女装してレイプされるのでもなく。革命はしたい。24年組だもの。でもおしゃれもしたい。女の子だもの。みたいなね。
上手いです。嫌いじゃないです。こういうの。
ちなみに理想の為に死ぬのはアデルじゃなくて、その友人。自分がジャンヌ・ダルクの生まれ変わりだと信じてある指導者を殺してギロチン送りになるんだけど、実はアデルの方はマジでなんとかっていう聖人の生まれ変わりだったりするんですよね。そういうところの、そこはかとない「卑怯じゃん!」感も、実際は上手く拭われているのが、読めば解ると思います。
 
作者が楽しく可笑しく面白く書いたらこうなるんだろうな、と羨ましい一冊。