書評左翼になりつつある『T.E.ロレンス』『SWAN』メモ

発行年を無視すれば自分が今年読んだ中で五指に入るのは確実な2作品を読み終わったばかりなのでメモ。

入手にかなり苦労した、っていうか今もしている本。本屋で注文してもヤキモキしそうなので足で探してます。それがまた楽しいんだけどね。
普通漫画というのはクライマックスを終盤に置くものだけど(たしか日本語ではクライマックス=終わり、って意味も流通してるっけ?恥ずかしながら子供の頃そう思っていた記憶がある)、この漫画のクライマックスは前半にある。ロレンスの心に陰鬱な影を落とす母への報復のように十字軍にのめりこみ、アラブを解放しようと人生で最も幸福で充実した日々を過ごしたロレンス。その後はひたすら英国に、アラブに裏切られ、大きくなりすぎた自分の名声に押しつぶされ、ただの一兵卒として暮らすことも叶わず、自分の手で掬ったはずの砂が手中から滑り落ちていくのを感じることしか出来ない。読者としては後半ずっとそんな展開につきあわされ、心がどうにかなってしまうのではないかと思った。なぜならロレンスのような一部の者には、全てを乾かす砂漠の砂が黄金に光る砂金に見える、ということを私も知ってしまったからだと思う。鬱。

曽田正人『昴』の大ファンの私だが、オーソドックスなバレエ漫画という点ではこちらに軍配が上がる。バレエの真髄、芸術性を左右するものとは、有吉の言葉でいう「バレエの魂」「バレエの心」である。初期、主人公真澄がクラシックを踊っていたころ、それは“解釈”と密接なつながりを持っていた。しかし、物語中盤真澄はなんとニューヨークに行ってバランシンに師事するのである(!!)。バランシンは観る者すらを試す。ましてやクラシックばかり踊ってきた真澄は、バランシンを見るのも初めてだった……そこでは今までの“解釈”というテクニックは通じない。こういった、バレエへの向き合い方がいちいち素晴らしいのだ。そんでもってレオン!初登場時にバレエの女性優位性に怒号を突きつけたところからおいらはすごいキャラだと思っていたけど(実際それを乗り越えようとマシュー・ボーンもマッツ・エックも頑張っているわけだし)、その後のコンクール後の一言で完全に度肝を抜かれた。真澄はコンクールぶっつけ本番で初めてレオンと踊り、自分を最大限表現させてくれるサポートに感激してレオンのところに「あなたのおかげで最高の踊り……を ホントになんて…」といいに行く。そこでものすごい深刻かつ驚いた表情をしてレオンが一言。

最高の踊りだって………?
………あれが?

すごいですこの求道精神。惚れました。