キリスト教という「無知カルト」――町山智浩『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』

アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない (Bunshun Paperbacks)

はてなダイアラーでもある町山智浩氏の著作。アメリカ大統領選挙の「前」というタイムリーな時期に出たため手に取って読んだ。


さて、タイトルが示すとおりの、主にアメリカの真ん中と下の方に住んでいると言われる「無知」で「マッチョ」なアメリカ人たちを、主に福音派キリスト教徒という点から読み解いた著作、と言ってよいと思う。どちらかと言えば、黒人より白人を、偉人より馬鹿を語った本。


読めば読むほど、キリスト教というのがグレッグ・イーガン風に言う「無知カルト」であることを実感し、混迷を極めるアメリカ情勢を読み解くのにふさわしい、面白く、また適切な切り口を見つけてきたなという感想に尽きる。特に、「セックスは絶対ダメ! でも、やるなら生で!」の章における福音派の(キリスト教純潔教育+避妊をしてはいけないという教え)×性教育をしない、という方程式が、結果として10代の妊娠を増加させるというあべこべな結末、そしてそこにブッシュ政権がどう絡んだか、というのは、日本からはなかなか見えづらいアメリカのダブル・スタンダードを暴き出していて興味深い。サラ・ペイリンの娘の妊娠は(そして言ってしまえば彼女自身の最後の妊娠についても)このような社会的背景を踏まえた上で論じられるべきであるが、日本ではさらりと「ペイリン氏は福音派」と触れられるだけだから、なかなか状況が掴みにくいことはもちろんYou betcha!なのである……。


私自身アメリカにいた時(ちょうどJoe 6 pack発言をした時、訪米していた)、各放送局のサラ・ペイリンの取り上げようはオバマのそれを上回るものであったし、彼女のあり方がアメリカの色々な部分を浮き上がらせてくれていたので、その補助本としても訳に立った。また、いまブッシュ政権を総括するのにも良い本だと思う。また、マケインはなかなか味のある良い人間なんだが、たぶん来年には忘れられていると思うので、今年のうちにこの本に記載されている「はぐれ牛」マケインにまつわる話を読んでみることもお勧めしたい。


しかし、この手の著作はオバマが大統領になってからは、どのような立ち位置をもって「風刺」と「ギャグ」のあいだのポジショニングをするかに悩まされるであろうなぁ。