無能な公務員に仕事を与えないことを選択した自治体 

サンディ・スプリングス市について調べてみた。
“独立”する富裕層  〜アメリカ 深まる社会の分断〜」を入院患者の待合室で見た。
一番興味を惹かれた部分は、ジョージア州サンディ・スプリングス市で公務員を消防・警察以外民間に委託したところ。市民サービス、税務課、建設課、裁判官までも外部に委託することで、通常数百名かかる人数を9人に抑えることに成功したという。
そこで、番組の内容から更に進み、そのことによるコストカット効果はどれくらいだっただか試算をしてみた。入札で決定した委託先、全米大手ゼネコンの子会社「CH2M HILL OMI社」の140名の社員が本来公務員が行っていた市の業務を行っているという*1。つまり「9人」とはあくまで正規の市職員の数で、数百名の業務を150名足らずに圧縮したというのが正しそう。入札額は2,700万ドルだから約27億7千万円であり、委託先150人の1人あたりのコストは*2単純計算で1,850万円であり、ずいぶん高いなという印象。*1によると6年契約だというから、そうすると370万円となり、しっくりした金額となる。ちなみにアメリカの公務員の平均年収は3,224ドルと言われており*3、日本円にして384万円程度。つまり、数百人規模の人員を半分程度に削減でき、1人頭の年俸も5%ほど削減でき、さらにサービスも向上した、というのが実情のようだ。単純計算ではこの人件費だけで6年間で約13億8千万円、1年あたり約2億9千万円の節約になっており、番組では「年間5,500万ドル(56億4千万円)が半分以下に抑えられた」とあるため、その他の無駄削減も含め年間約実に23億2千万円の負担削減となっているようだ。市の税収は全国的に豊富なほうで、それでも90億円だというから、これがいかに大きな削減かがわかる。削減の結果、より一層治安強化に財源を割いているようだ。
その後番組は、アメリカの格差社会と切り捨てられる貧困層に焦点を当てたが、私は削減された市職員数百名に興味を持った。たしかに、無駄削減分の23億に対して2億9千万円というのは大きな数字ではない。しかし、ここでは日本では安泰だと言われ、中流の代名詞とも言える公務員で、明らかに100名以上の失業者が出ている。アメリカの富裕層は貧困層へお金を吸い取られる構造を拒否したばかりか、中流層にお金で働いてもらうことも一部拒否を示したのだ。
しかしその結果として、市民から9割の指示を得、少なくとも住民への治安維持やサービスは向上し、無駄な人件費や事業費(ここに貧困対策が含まれる可能性が多いにある)が削減された。このことは私を多いに悩ませた。市長は社長として、市民は会社員として極めて有能であり、貧困層への保護を拒否するモラル的問題を除いて、行った行動の結果に特に問題が見いだせないからである……残念ながら無能であったことが立証された公務員が職を失ったであろうこと以外には。


民間企業よりも働きが悪い公務員を職にとどめるべきか、それとも将来彼らが貧困層に落ちる危険性を知ってでも切るべきか。


正直な話、倫理的には彼らをクビにするのがよくないことはわかるが、心情的にはクビにイエスだ。図書館で疲労困憊した話 | sociologbookにもよく出ているが、彼らは改善を行うという意欲がなく与えられた仕事をただこなしているだけのように思われるため、仮に彼らがやっていることが世間の役にたつ目的があっても、手段として「公務員」が非効率で温すぎるのではないかというのが率直な感想だ。上記の図書館問題についても、そのような事例が起こったら各所で再発が起こらないように情報共有や対策を講じるべきだが、まず行われないだろう。また、日本は人口に占める公務員の割合が少ないが、地方公務員の年収は700万円を超えるなど高額で*4、平均年齢も高い。もちろん国家公務員などを中心に日々、改革、改善を志す人もたくさんいると思うが、自分自身お役所仕事に直面して辟易することは多数だ(たとえば病気に関する申請書類を郵送してくれず、ウェブにも載せず、わざわざ保健所に取りにいかせることなど)。
しかしながら、私は社会福祉の充実には元来賛成の立場である。今回入院し、文字通り社会福祉のお世話になっている。よって、富裕層というよりは、「主権者である市民」が、公共サービスについて意見を持ち、改革を実行することは素晴らしいことだが、サンディ・スプリング市の特集で見られるように、そこに社会的弱者を切り捨てるという動機と結果が付随することには、心情的にも全く同意できない。せっかく無駄をなくし、財源を確保したのだから、社会的な弱者を従来通り保護するべきである。なぜなら、どんなに努力しても人はいつか社会的な弱者に落ちる可能性があり、それは高所得者であっても変わらないのである(難病や手術で保護がなければ年間数千万円の治療費がかかることもザラである)。とはいえ、それが市の仕事であるか国の仕事であるかどうかは多いに議論の余地があるだろうし、日米の差もあろう。
そして今回の特集で最も気になった、クビになった100人を超えるであろう半数の市職員。かれらは普通の知性を持った人々だったと推測されるが、サンディ・スプリング市の行政運営に変革を与えた人々にとって、その普通さは怠惰で緩慢なものに見えたのだろうなぁ。