終・少年は子宮になりうるか

カルノ・グィノーは魂の免疫不全の悪魔喰いという設定である。人は簡単に他者と交じり合ったりしない。ただし、カルノは魂の免疫不全であるために、他者の魂と簡単に融合する。そして魔物にとって受肉するということは魅力的なことであるため、カルノは魔物の「器」になる。
 
嫌な予感がした人、ごめんなさい。つまり、キラからさらに進化した形で、カルノは「子宮」だと思うんです。
 
証拠ならあります。まずカルノに悪魔が憑いた瞬間を描いた2巻。

……来よ 魔性の子よ 手始めに我をやろう
その身にやがて我が主が受肉せし時のために
まずは 我が混じりて苗床を耕そう

苗床。そして最新11巻ではもっと重要な言葉をいくつか散見できる。カルノと違って、下級な魔(自分の母親)が頬にくっ付いているユーハ。それは「霊的にほっぺたで妊娠してるようなもん」と表現される。カミサマと交感して子供を作る話がされる。さらに高等な魔を受肉させることが出来る器をもったカルノのことを、ユーハは「高級娼婦みたいなもん」という。
やはり、カルノは子宮のメタファーである。
と同時に、子宮のイメージを大きく離れている。かれは少年だからだ。
勿論、カルノ自身の魂が強く輝いていることによって、カルノは喰ってきたモノに打ち勝つことが出来る。つまることろ、排卵はしても受胎はしないようなものである。そこで遺伝子情報のハンブンに変わる精子的なものが必要となる。嫌な予感がした人は逃げましょう。それは「神霊眼」をもつ勇吹である。なんとなく、母的なイメージがある勇吹だが、そこらへんは『逆転』ということでさらりと流しておきたい(原獣文書でも逆転は見られる)。
少年魔法士のキーワードは『器』であるといっても過言ではない。72の英霊を入れておくための器、人王アークと、次代の勇吹。そして高等な魔を胎内に宿すことが出来る数千年に一度の器、カルノ。もう一人、お飾り猊下と呼ばれ、何も考えない肉であることを要求されたレヴィ。ここではアーク―勇吹、アーク―レヴィというシンメトリー構成、そしてカルノ―神霊眼という補完関係がある。そして『器になること』に対する態度は、なんだかんだで従順(アーク)、疑問を感じているが自我がいつも勝っている(カルノ)、そして反発(レヴィ)、謎…(勇吹)と、四者四様である。
ここまで書いたのなら、魔法士既読の方はお気づきだろうが、現在少年魔法士では、人王アークがカルノの意識をつぶし、72の英霊と世界中の魔法士を喰わせ、「神」を創り出そうとしている。ここもやはり萩尾望都との共通を思わせずにはいられない。新しいタイプの子宮としての少年・カルノと勇吹はこれからどうなってしまうのか、私は楽しみに見守っていようと思う。