私の好きなモリエサトシ!

不埒なシスター。

9月26日に京極夏彦の新作『邪魅の雫』が発売されると発表され、また私がしょっちゅう人に薦めている漫画『7Seeds』も発売されるのですが、そんな強力なライバルを差し置いて私はひとつの短編を最も楽しみにしています。モリエサトシ『猫の街の子』です。今年出会った漫画家の中でも松井優征と並びもっとも印象的であり、私を漫画そのものに熱狂させる力をもった稀有な作家、モリエサトシさんについて、検索やキーワードから結構お客様もいらっしゃるので取り上げてみることにします。

モリエサトシとは何者か

モリエサトシ全作品(2006年8月26日時点)
泣き顔のマリア/ザ花とゆめ2006年09月25日号
保健室の奇妙な住人/花とゆめ2006年11号
猫の街の子/別冊花とゆめ2006年05月号
不埒なシスター/花とゆめ2006年08号
猫の街の子/別冊花とゆめ2006年03月号
振り向いて、つかだ!/花とゆめプラス2005年10月25日号
隣家の住人/ザ花とゆめ2005年06月01日号
うつくしいもの/花とゆめ2005年08号
戦場にて、言葉無くして/花とゆめプラス2005年04月25日号
せつげつか/花とゆめ2004年19号
同棲四日/別冊花とゆめ2004年09月号
笑う残像サニー/ザ花とゆめ2004年02月01日号
ポンコツザ花とゆめ2003年10月01日号
恋男/ザ花とゆめ2003年08月01日号
ボーンヘッドヘイズ/花とゆめ2002年08月01日号
透明人間/花とゆめ2002年06月01日号
展望会期/花とゆめ2002年01月01日号
オモヒユリ/花とゆめ2001年10月01日号
幸せ主義(サチズム)/花とゆめ2001年13号
空もよう/花とゆめ2001年02月01日号

コミックホームズさまより引用


私は後進のファンなので、なんと『不埒なシスター』からの作品しか読んでいません。しかしながら、買った白泉社の雑誌はまずかならず予告・広告からみて新作が出ないかチェックする、それ以降の新作は全て発売日に購入し嘗め回すように読む、と変態的なまでにモリエ作品を愛しています。なんと、これだけの作品がありながら、いまだに単行本が出ていないという状況で、すでにモリエさんの熱狂的ファンによって復刊(なのか?)ドットコムでの投票は100票を突破しています。さらに、山金ジョータ名義でコミックテクノに作品が掲載されたこともあったようです。ちなみに、信じられない漫画量を読むことでおなじみOHP柴田さん(最近ではSTUDIO VOICE伊藤剛さん・ヤマダトモコさんと対談)のお気に入りでもあるらしく、よく名前が取り上げられているのをみかけます


モリエ作品にとりこになる人が多い理由は何でしょう。恐ろしいまでの言語センス。現実を切り取る冷静な目線。スタイリッシュな絵柄と少し硬い描線。しかしそれ以上に、私はこの物語に描かれた人々の間の距離感がたまらなく好きです。一人ひとりの間に物語性があり、こんな空間ならいくつもの面白い物語が生まれてきそうな気配です。

モリエサトシ作品レビュー

  • 『不埒なシスター』

ある日から突然、夏でもブレザーやジャージを着て肌を隠すようになった女の子、宮本澄ちゃんと、彼女の手の熱さが忘れられない甘えんぼう男沓掛くんの話。

そして彼女に一体何が起こったのかといぶかしんでいた皆の衆は気づいたのだ 彼女はその身を神に捧げられたのだと…!
ならばシスターは その純潔を誰に捧げられたのか

最初に触れたモリエさんの作品にして、最も好きな作品です。とにかくヒロインのシスターが私のタイプで(おにゃのこだけど!)、それに沓掛くんのようなお調子者が骨抜きにされているという設定がたまらず(というか、少女漫画の王道なんですけどね!『バラ色の明日:エンジェルベイベー』も、『キス、絶交、キス』もそんな話だし。でも決定的に違うのは沓掛くん側から描いているということなんだよ!!)、この二人がくっつくのを心から応援してしまいました。他人には分からない事情ですれ違う2人が不埒な神様のもとで密通する、というこの緊張感は、他のモリエ作品の中でも群を抜いています。その癖に、作風はコメディタッチで軽快。読んですぐ、ありとあらゆるところでこの作家さんは天才なのではないか、と触れ回っておりましたが、今なら言えます天才です。
最後にシスターが沓掛くんに手を伸ばすところで本当に胸が締め付けられました。高校の雰囲気もいいなあ!

  • 『保健室の奇妙な住人』

高校の保健室。保険医の暴君、薬屋の(息子の)アンドー、そして紳士・川端セイジ。セイジは自分が保健室にいるのは、「俺は優しくする相手を必要としている」からだと語る。

――ああ 誰かに優しくしたいなあ だれにでもいい どんな風にでもいい 僕に優しくさせてくれないかなあ

この台詞を読んだだけでもうどうしようもなくなって、興奮がおさまるまで家中をぐるぐる歩き回っていた。セイジの諦めたような笑い顔、冷たさと優しさの裏返った危ういバランスが素晴らしい緊張感を生み出しています。つづきが読みたい度No.1。暴君の話、そして何よりもアンドーの話が読みたくて仕方ない。しかも紳士が手袋をしている伏線は回収されないままだったりと(幼少時はしていないので)、気になる点がいっぱいあるまま終わってしまった。いつかどこかで連載されるのをじっと待っています。信じてますので……!
ちなみに、セーラー服と学ランの制服で、「不埒なシスター」とは違う高校のようデス。(え、何でそんなことを言うのかって?そりゃあ……!最後まで読んでネ!)

  • 『猫の街の子(2)』

モリエ作品初の不定期連載シリーズ化作品。母親に捨てられながらも、ネコの「たえ」をあたらしいおかあさんにたくましく生きる男の子「しろ」を主人公に送る。舞台は大正時代?京都? 古めかしい感じ。

ぼくにはにんげんのおかあさんがいました
くらいよるに
おいかけて
おいかけて
おいかけつづけたせなかさえみうしなってしまったぼくに
おかあさんはおかあさん(lepantoh注;ネコ)をくれました
いまではりっぱなおやこです

モリエキャラ wears 着物……!その時点でノックアウトです鼻血ですよ……!脳噛さんの浴衣姿にもやられましたけど……!
一威こと「いちい」とセイジの笑い顔がそっくり。恋愛をベースとせず、小さいコミュニティでのほのぼの話をもかけてしまうモリエサトシの力量には単純にびっくり(と思ったら、あっさり運命の関係のような作品も書いてしまう)。どの作品のどのキャラクターも、おそろしいまでの感受性、センス、そして世界の切り出し型を見せてくれるのがモリエ作品の醍醐味か。「今現在 この街で一番多くのものを失ってゆくのはお前だろう けれどこの街で 一番多くのものを手にしてゆけるのもお前だろう」としろに語る一威の寂しげな笑顔がたまらん。

  • 『泣き顔のマリア』

奇跡は起こった。

「お前は!水分補給のことしか頭にないのか!」
「そうだけど何怒ってんの」

俺に必要なのは水分だけ
他のことはどうでもいい
何かに心動かされることはない

全国の不埒なシスターファンに告ぐ、今すぐ本屋に走って買え!まだあるぞ!多分! そう、読んでピーンときたあなた、これは『不埒なシスター』に出演する乾いている男子・宮田くんの話(シスターにホースで水をぶっかけた人だネ☆)! 宮田くんの話ももちろん面白いのだが、昼ごはんを食べに誘う見覚えのある男の子に俺は泣いた! なんと沓掛くんだった!
それにしても素晴らしい。諦めたような笑顔が特徴のセイジ・いちいに対し、宮田くんのうつむきがちの表情はまさに耽美。耽美な絵とは何か。異論反論あるでしょうが、私にとってそれは、目のラインが伏せがちに、下向きに張った弓なりのラインを描くことを指します。それが満たされていて、なおかつ影と気品さえあれば全ては耽美なのです。
そしてラスト……!水分が切れた宮田くんを救おうとする、水分過剰のマグダラのマリア(あだ名)が入ったクラスにはなんと沓掛くんと黒髪の美女が……! ぬ、ぬ、脱がせてる……(ブレザーを)! エロス……!
夢でも見ているのかと思いました。だから沓掛くんはあんなに「見るんじゃない!」と慌てているんですね。たかがシャツ姿ですが私たちにとっちゃあ大事です。おめでとう沓掛くん!わーわー!カランコローン!


……脱線しちゃいましたが、モリエサトシさんの真髄は拒絶と共有の繰り返しなのだ、と改めて振り返って思いました。
lepantohこと岩瀬坪野はモリエサトシ先生、松井優征先生の作品に心から骨抜きにされてしまっており死ぬ気で応援しております。それではまた、9月26日にお会いしましょう。