漫画まとめ

それにしても、あまりに久しぶりなため、何がなんだかわからない感想なので簡単に自分的少女漫画観を纏めてみます。
少女漫画に多大なる影響を与え、少女漫画の手塚治虫と呼ばれるのは萩尾望都ですが、私は彼女の本質は、〈少女〉からの脱出だと考えています。ここでは〈少女〉というのは自らの意思と判断能力を持たない白痴的な存在と考えてください。萩尾望都は〈少女〉にそこはかとない憧れと憎しみを混在させつつ、そこからいかに脱出するかを模索し、もがいてきた作家だと思っています。逆に萩尾作品の主人公は非・〈少女〉*1ととりあえず言うことが出来ます。彼女が「双子」を好むのは、彼女の作品の登場人物がはっきりとした自己境界線を持たないからであり*2、そしてそのような人物として、他人と無垢=〈少女性〉を共有しようとすることで非・〈少女〉は少女世界への参画を試みてきました*3
一方で萩尾望都は〈少女〉を殺します。
それは〈少女〉の宿命であり、また汚い世界にたいする生贄でもあるのですが、最初はかなり無自覚に、そして次第に意識的に、〈少女〉的な人物を萩尾は殺します。それは少女だけではなく、少年、異性人、男性、母と形を変えて現れますが、最終的に(ここで萩尾望都30年の歴史を一気に飛ばしてしまうわたくしをお赦しください)萩尾望都は〈少女的な母〉こそが最大の敵である、という結論を一旦下したように思えます。そして萩尾望都は〈少女的な母〉の性格を負う大地*4を拒絶し、“水”的な体系の中から、男が男を産むというぶっ飛びアイディアでその〈少女的な母〉の輪廻を脱却しようと試みています*5
 
少女漫画において、出産体系というのは非常に重要なファクターでした。萩尾望都のみならず、24年組、ポスト24年組、そしてなるしまゆりから鋼の錬金術師までを、私はこのキーワードでつなぐことができると思っています。私に言わせれば、ハガレンの〈母〉は、全てを呑み込む大地的な性格を背負った*6典型的な少女漫画母であり、錬金術の陣は母を拠り所としないあらたな「子宮」です。げへ。
 
私は『鋼の錬金術師』は少年漫画版『少年魔法士』だと何度も行ってきましたが、テーマやアイテムが非常に被っていることを除けば、少年魔法士ハガレンの数倍上の問題意識をもった作品だと思います。とりわけ6,7巻は素晴らしく、少女漫画が抱えてきたアダルトチルドレン的母への回収を、どのように脱出するかを完全に書ききった漫画は、私が知る限りこの世にこの2冊しかありません。
少年魔法士のテーマは「器」だという話をしたことがありました。
主人公のカルノは悪魔憑きで、普通の人なら持ち合わせている魂の免疫機能とでもいうものがないために誰とでも何とでも簡単に融合してしまいます。これはつまり、高等な魔の受肉用(実体化用とでも言えばいいでしょうか)受け皿としてカルノが常に狙われている、ということです。もう一人の主人公勇吹(いぶき)は逆に、自らは非常に影響されづらく、それどころか他のエーテルを持つものの形を変えることが出来る神霊眼です。彼はその能力ゆえに、こんどは時期「人王」にさせられそうになりますが、この人王というのはまたも器です。非常に強い人物が、72の英霊というのを体に封じ込めてそのまま何百年も暮らすのです。王とは言えど、彼の力はあまりにも絶大なため、その力を行使することは禁じられています。暗い牢獄の中で一人、外に出て力を行使しようとそそのかす72の声の誘惑に耐えながら、永遠とその力をもらさない様に受け継がれるべき称号が「人王」です。そして主人公カルノと勇吹をサポートしてくれるレヴィ・ディブランも元「器」です。魔法組織神聖騎士団の最高祭司だったレヴィ(通称猊下)は、幼い頃持っていた奇跡の力も薄れ、お飾り祭司としての君臨を強いられていました。彼は大人になるにつれ、組織の、そして自らの過ちに気づき、母親(非常に〈少女〉的)のところにその意見を言いに行くのですが、そうすると母親にレイプされてしまいます。レヴィは一旦は絶望しますが、自らの問題を見据え、11年間を耐え、ついに力をためて騎士団を脱出します。
 
とりわけ私が注目するのはカルノです。もう一人、彼のほかに頬に他の例が受肉している女の子ユーハという子がいます。その子は「霊的に頬っぺたで妊娠しているようなもん」と表現されています。ということはカルノは、全身で自らの特性と相手の特性を吸収していく子宮のいらない新生児のようなものだ、ということができるのです。
さらに、勇吹は自らの能力に目覚め、人間を組成できることを確認しました。つまりカルノと勇吹がいれば、特に母親がいなくても、子供を作れるということになります。これは非常にファンタジー的な母性脱出への挑戦だと私は見ています。
といっても、現在この作品では「死者を蘇らせられるかもしれないが、それはなんか感覚的にヤダ」という経過しか出ていません。12巻において新しく出てきた死者たちの祠、そしてシェーラ姉さんの「産まれ方」とやらを、観察することにします。
 
ちなみに原獣文書の感想もはっつけときます
http://d.hatena.ne.jp/lepantoh/20040306#p2

*1:外見や知性などから外部世界に〈少女〉と認識されない人物・異端児

*2:本人談

*3:なぜなら非・〈少女〉は異端児であっても内面はまた〈少女〉的でもあるからです

*4:ここらへんがバフチンと酷似しています

*5:なぜかというと、〈少女的な母〉の下に生まれた子供もまた少女的にならざるをえないからです

*6:アルを呑み込みました