6、性器を持った少年が母性と対立するとき

性器と持つ少年によって美化される母性。それを打ち砕いたのがなるしまゆりだった。『少年魔法士』の主要登場人物、レヴィ・ディブランは虚弱体質で神聖騎士団の最高祭司、しかも金髪碧眼の美男子という、なんとなく中性的なキャラクターとして描かれている。しかしその実、不死の高次生命体ナギとできており、性器をもつ少年である。重要なのは、1、彼は母親に犯される、2、性器をもちながら母性と対立する、という二つの新しい構図である。母親に犯されること自体は、『ラヴァーズ・キス』にも見られる構図だが、こちらの場合は重みが違う。父親のダブル(分身)として犯されそうになる朋章とは違い、レヴィは自ら考え、その意見を母親に言いにいったところ犯される(非少女であるため犯される!)。その考えとは、自らが力を込めて押すことで、他人の身体を傷ついても元に戻すことが出来る「奇跡」への疑問だ。幼い頃は無意識にやっていたが、次第に「傷つく」ということがどんなことか、その痛みを知り、「奇跡」を受けたものが悪魔討伐に行くことへの疑問を母にぶつける。そして母アンヌはこう言う。

「自分で?自分で何を考えたというの?余計なことですよ」
「ああ……いやだ この子はなんでこんなに大きくなってしまったのかしら」
「もう……私に……お還りなさいな……」(6巻)

そうして母アンヌはレヴィを犯すのである。その後、レヴィはアンヌの後をつけ、壁一面に並ぶ冷凍胎児を見る。そして最後に、年をとるにつれ衰える自分の能力によって、肉塊になっても死ねない、知性のない不死身の肉体を見ることによって、ついに自暴自棄になり魔物の巣穴に飛び込むのだ。
しかしそこでレヴィは高次生命体ナギと出会い、二人は恋人となる(このあたりは詳しく描かれていないが)。ナギと契約を結び、雌伏11年の後、母親の元を離れて騎士団を脱出するのである。ただしここでは母性との格闘の決着にはっきりとした結論は与えられていない。とにかく今まで見てきた中で最高の終わりかたではあった。

レヴィ・ディブランの母性との対立以外の特徴として、

  1. 人外の生物との性交
  2. 非少女であるがゆえに貶められる

ということが挙げられる。1に関しては、私は他に例をあまり知らない*1。ここで重要なのは、おそらくナギは出産能力を持っていないであろうということである。つまり彼女と結ばれることは母的な体系への回帰にはならない(実際レヴィは、女性らしいラフィトゥが苦手だと告白している)。2に関しては、彼にとって、彼が「押す」ということがどういうことか知りながら「奇跡」を受けに来る騎士たち、また知ろうとせずに自分を崇める者たちは、まさに<主体><認識行為>を封印された「少女」であり、彼自身もまたそのように育てられたために、知ってしまった自分に対して思い悩む部分がある。しかし彼はナギの協力を得て、「非少女」となることを選択するのである。

*1:『OZ』の1024というロボットとネイトくらいだろうか?萩尾望都銀の三角』でもラグトーリンはタカオとかいう脇役と寝ていたが