7、テーマの逆転――「少年魔法士」

少年魔法士は、今までのテーマを「逆転」させた漫画である。
同じ「異端児」を描いた漫画でも、萩尾望都の作品において、永遠を担当するのは「少年」の役割であった。全てを失ってもなお生き続けるバンパネラエドガーに、死ねない少年エルグ、そして殺され続ける少年、ル・パントー(ラグトーリンという例外もいるが)。それでは少女達はどうかというと、「死んで」永遠になるのである。フロイライン・トーマしかり、メリーベルしかり、ユーシーしかり、トリルしかり、その代表例はレッド・星である。直線的な時間を生きるエルグに対して、一度死に、もう一度母胎に還る星。二つの永遠。
ところが、少年魔法士では「永遠」を背負うのは女である。人外の高次生命体ナギ/一定の繰り返す時間の中で少女であり続けるローゼリット/傷ついても元に戻る「奇跡」を受けたアンヌという女性陣の異端児。エルグ的一直線の時間を背負うナギに対し、同じ場所で止まる時間を持つローゼリット、そして環状線のように見えて螺旋階段のような肉体をもつアンヌ。そして彼女たちは、高次生命体で人外の生物、強い/グィノー家一の魔女/神聖騎士団の最高祭司の母で実質上のトップ、という『力』を持っている人物でもある(異端児の特化された能力を有効活用している)。
それに対して、「今」を背負わされるのは男である。レヴィ、カルノ、勇吹。そして人王アークすらも死ぬのである。更に彼らは、確かに素晴らしい能力を持っているが、その能力に自分自身が貶められ、また悲しい思いをしている(異端児の二面性を強くもっている)。それをもっとも強く体現するのが、人王アークその人である。彼の継承した72の英霊は、身に宿すものに世界最高の魔法を約束するが、その力は強大すぎて、世界を破壊してしまう。よって人王は、ただただその力と英霊を身体の内に封じ込める「器」でしかない。当然、これは「最高祭司という器」、そして「肉」であることを拒否し、自ら騎士団を抜け出したレヴィ・ディブランの対極にいる存在である。そして彼らはナギを巡って争うことになる。

勿論、この物語が永遠の少女、ローゼリットの死から始まることは、特筆すべきものである。死を望む姿と、勝気な女――藍とカルノに写った別々の姿。しかし「永遠」は崩れ去り、「少女」は死ぬ。少年は生きていかざるを得ない。
だが何のために?