3、女性的/男性的ジェンダー・ロールを同時に押し付けられる
メッシュ、そしてアッシュが父親からひたすらに押し付けられるのは“役割”そのものである。それは時に男娼の形を、時に少女の形を、そして共通するものとしてマフィアの跡継ぎの形をとっている。メッシュ、アッシュはその(内容を問わない)“役割”というものそのものにお互いこの様に唾を吐きかける。
「そのとおりにオレはやってる
あんたたちの望みどおりにさ セリフを決められたしばいをやるみたいにさ
あんたは? それで次はあんたの番?」(以下モノローグ)
そうさ 順番を待ってるんだろ いっそそう考えたほうが気が楽だ
そうすればこの件はすべて 台本や規則どおりに行われたおしばいに思えるさ
この世界のルール 用意され与えられた役割
マルシェの娘 約束された妹 ルイードは婚約者を手に入れる 母親は娘にキス
そして――?
そして幕!すてきだ
あとは? そのあとは? ……?(『メッシュ』vol.3 pp.218-219)
「そんなもんはまっぴらごめんだ…!あのタコおやじのところで手に入れられるものなんか
そんなものはにせものだ!! ただの舞台装置じゃねえか…!あんたは――
その上でオレに与えられた役を演じろっていうのか!? にせものだってわかってて…
気がつかないふりをしてろって――――― あんたがいうのか!?
じゃあなんであんたは引退なんかしたんだ!
なんで世捨て人みたいにカリブにひっこんだ…!
与えられた役にうんざりしたからじゃないっていうのか!?
(『BANANA FISH』vol.8 pp.70-71)
ここで、メッシュは自分を白痴の母マルセリーナが信じる〈娘〉にしようとするその家族に抵抗し、またメッシュはコルシカマフィアの跡継ぎになるのを抵抗している。しかし、コルシカマフィアのボス、ディノ・ゴルツィネは昔アッシュを男娼として扱っていたし、またメッシュはこれまたマフィアのボスであるサムソンから後継者になるよう望まれている。この二人は同時に女性的な役割と男性的な役割を担うように要求され、その結果は父への「反抗」に結実する。